ハウスクリーニング特約は有効?風呂のカビは誰の負担?契約書と請求書で見る場所
運営:株式会社ドローン工務店
ハウスクリーニング代は、本来だれが負担するものですか?
特約がなければ、借主が通常の清掃をしている限り、貸主の負担とされています。ガイドラインの別表1は「専門業者による全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃を実施している場合)」を、貸主負担の例に挙げています。
ガイドラインの考え方は、次の入居者を確保するための清掃は貸主の仕事、というものです。専門業者によるハウスクリーニングは、破損していない畳の表替えや、破損も紛失もない鍵の交換と同じく、貸主が負担するのが妥当な例に入っています。エアコンの内部洗浄も、喫煙などの臭いが付いていなければ貸主側の例です。
ここで条件になっている「通常の清掃」の中身も、別表2に書かれています。ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回りの清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去。退去時にここまで済ませていれば、通常の清掃をしたと言える水準です。プロ並みに磨き上げることまでは求められていません。
借主の負担になるのは、この通常の清掃をしていない場合です。そのときは、部位ごと、または住戸全体の清掃費用相当分が借主の全額負担とされています。クロスや設備と違い、クリーニングには経過年数の考慮がありません。6年住んだから清掃費が1円になる、という計算にはならないので注意してください。
- 貸主負担の例: 専門業者による全体のハウスクリーニング(借主が通常の清掃を実施している場合)、エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いが付着していない場合)、台所・トイレの消毒
- 通常の清掃: ゴミ撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去
- 借主負担になる場合: 通常の清掃を実施していないとき。部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分(経過年数は考慮しない)
契約書にクリーニング特約があれば、必ず払うことになりますか?
必ずではありません。ガイドラインのQ16は、クリーニング特約が有効かどうかは、借主が負担する内容・範囲が示されているか、本来は借主負担にならない通常損耗分も負担させる趣旨と範囲が明記または口頭で説明されているか、費用として妥当か、の3点から判断されるとしています。
有効とされた例として挙げられているのが、東京地方裁判所の平成21年9月18日判決(事例36)です。賃料月額5万6,000円、敷金5万6,000円の部屋で、契約書などに「契約終了時にハウスクリーニング費用2万5,000円(消費税別)を賃貸人に支払う」と書かれていました。賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書にも、原則の説明のあとに「例外としての特約」として同じ金額が書かれ、仲介業者が口頭でも説明していました。裁判所は、汚れの有無や程度を問わず専門業者の清掃費2万5,000円を借主が負担する特約が明確に合意されていると認めました。消費者契約法10条との関係でも、借主が退去時に通常の清掃を免れる面があること、金額が賃料の半額以下であること、専門業者の清掃費用として相応な範囲であることから、違反しないと判断しています。
同じ東京地裁の平成21年5月21日判決(事例33)も、特約を有効と認めた例です。賃料月額13万円の戸建てで、更新時の契約書に「明け渡しをするときは、専門業者のハウスクリーニング代を負担する」と明記されていました。裁判所は、内容が一義的に明らかだとして、クリーニング代6万3,000円を借主の負担としました。ただし、この契約にはほかに原状回復の特約がなかったため、内装工事費については、通常の使用を超える損耗(タバコのヤニで除去できない和室の壁、大きく破れた障子など)の分だけが認められ、それ以外は敷金から引けないとされています。
逆の例もあります。Q16は、畳の表替えなどと並べて「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」と定めた特約について、一般的な原状回復義務を定めたものにすぎず、通常損耗まで借主に負担させる特約とは言えない、と判断した東京地裁の平成21年1月16日判決(事例30)を挙げ、「クリーニング特約が有効とされない場合もあることに留意が必要」と書いています。
3つを並べると、分かれ目が見えます。有効とされた2件は、クリーニング代だけを取り出して、誰が何を負担するかがはっきり書かれ、1件は金額まで書かれて説明もされていました。有効とされなかった1件は、張替えや表替えと一緒にまとめて「借主負担」と書かれていただけでした。契約書の特約欄を見るときは、クリーニングについて独立した一文があるか、金額が書かれているか、契約時に説明を受けた記録(説明書や重要事項説明書)があるかを確認してください。
風呂やトイレのカビ・水垢は、借主の負担になりますか?
清掃や手入れを怠った結果であれば、借主負担とされています。別表1は「風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(賃借人が清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合)」と「ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす(同)」を借主負担の例に挙げています。
ガイドラインのQ10は、借主の善管注意義務の例として「通常の掃除を怠ったことによって、特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合」を挙げています。線引きは、汚れがあるかどうかではなく、通常の清掃で落ちる範囲かどうかです。市販の洗剤とスポンジで落ちる水垢やカビは、退去前に落としておけば請求の対象になりにくく、落とさずに出れば「通常の清掃をしていない」と見られる材料になります。
カビは、借主だけの責任とされないこともあります。横浜地方裁判所の平成8年3月25日判決(事例9)は、洋間、洗面所、トイレなどに広がったカビについて、新築でカビが発生しやすい状態だったことを考慮しつつ、発生後の手入れにも問題があったとして、借主の責任を2割程度とし、修繕費15万5,200円のうち3万円の負担にとどめました。枚方簡易裁判所の平成17年10月14日判決(事例23)は、結露が建物の構造上の問題と認められ、借主は見えるところの結露をその都度拭いていたとして、カビの発生に借主の過失はないと判断しています。換気扇が弱い、窓がない、結露がひどいといった事情があれば、入居中に管理会社へ伝えた記録が材料になります。
クリーニング特約と水回りの清掃費が、両方請求されていたらどう見ればいいですか?
特約のクリーニング代に何が含まれているかを、管理会社に確認してください。事例36の特約は「汚損の有無及び程度を問わず」専門業者が清掃する費用でした。部屋全体の清掃費を特約で払ったうえに、浴室やキッチンの清掃費が別の行で載っているなら、同じ作業が二重に入っていないかを聞く理由があります。
二重かどうかはガイドラインに直接の記述がなく、契約書の書き方と汚れの程度で変わります。特約が「室内全体のハウスクリーニング」で、別の行が「浴室の特殊清掃(通常の清掃で落ちないカビの除去)」であれば、別の作業として説明がつく場合があります。特約の範囲に水回りが含まれているのに、同じ水回りの通常清掃が別に請求されているなら、説明を求めてよい部分です。
ガイドラインのQ17は、貸主には敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、借主は明細を請求して説明を求めることができる、としています。「ハウスクリーニング一式」とだけ書かれた請求には、作業の範囲、面積か部位、単価を聞いてください。ガイドラインに付いている精算明細書の様式例にも「室内クリーニング」の行があり、単価、数量、貸主と借主それぞれの負担割合と金額を書く欄が設けられています。
退去前と請求後に、何を確認すればいいですか?
退去前は、契約書の特約欄と、通常の清掃の5項目です。請求後は、クリーニング代が特約に基づくものか、汚れを理由にしたものかを分けて、それぞれ根拠を確認します。
特約があって金額も書かれているなら、その金額は払う前提で予定しておくのが現実的です。事例36のように、明確に合意された特約は有効とされています。そのかわり、特約の金額を超えるクリーニング代や、特約にない清掃費が載っていたら、根拠を聞いてください。事例33でも、特約のクリーニング代は認められましたが、特約にない内装工事費は通常の使用を超える損耗の分だけに削られています。
特約がない、または「原状回復費用は借主負担」のようなまとめ書きしかない場合は、通常の清掃をして退去したことを示せるかが大事になります。掃除を終えた状態の写真を、浴室、トイレ、洗面台、キッチンのコンロまわりと換気扇、床の順に日付入りで撮っておいてください。立会いで見られる場所は、当コラムの「退去の立会いで言ってはいけないこと、確認すべきこと」にまとめています。
請求書が届いたあとに、金額が妥当かどうかを自分で判断しにくいときは、当サービスの退去費用診断に部屋の状態と請求の内容を入れてみてください。借主負担になりやすい項目と、貸主に確認したほうがよい項目を分けて返します。
クリーニング代を払う前に確認する5点
- 1契約書に、クリーニングについて独立した特約があるか。金額は書かれているか
- 2契約時に特約の説明を受けた記録(重要事項説明書・紛争防止条例の説明書など)があるか
- 3請求されたクリーニング代は、特約の金額どおりか。超えているなら理由は何か
- 4特約のクリーニング代とは別に、浴室・キッチンなどの清掃費が載っていないか。載っていれば作業の違いを聞いたか
- 5退去時に通常の清掃(ゴミ撤去・掃き掃除・拭き掃除・水回り・換気扇とレンジ回り)をした写真が残っているか
よくある質問
自分で隅々まで掃除して退去しました。それでもクリーニング代は請求されますか?
有効な特約があれば、請求されます。東京地裁平成21年9月18日判決(事例36)の特約は、汚れの有無や程度を問わず専門業者の清掃費を借主が負担する内容で、有効とされました。特約がなければ、通常の清掃をして退去した借主に専門業者のクリーニング代を負担させるのは、ガイドラインの考え方に沿わない請求です。まず契約書の特約欄を確認してください。
特約に金額が書かれていません。無効になりますか?
金額の記載がないことだけでは決まりません。ガイドラインのQ16は、クリーニング特約には具体的な金額を記載しているものも、そうでないものもあるとしたうえで、内容・範囲が示されているか、説明があったか、費用として妥当かで判断されると説明しています。金額が書かれていない場合は、請求された額が部屋の広さに対して妥当か、作業の範囲と単価を聞いて確かめてください。
浴室のカビがひどく、落としきれませんでした。全額負担になりますか?
手入れを怠った結果のカビは借主負担とされていますが、割合は事情で変わります。ガイドラインには、建物がカビの発生しやすい状態だったことを考慮して借主の責任を2割程度とした例(事例9)や、結露が建物の構造上の問題で借主に過失はないとした例(事例23)が載っています。換気設備の不具合や結露を入居中に管理会社へ伝えていたなら、その記録を出してください。
出典
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)・別表1(設備、その他)・別表2(鍵、クリーニングなど)・Q&A 10/16/17・事例9/23/30/33/36・原状回復の精算明細等に関する様式(2026年9月18日にPDF本文を確認)
- 2026年9月21日: 当サービスの診断件数にもとづく記述を削除しました(記録に動作確認の入力が含まれており、実際のご相談の件数として示せないため)