敷金を超える退去費用を請求された。払う前に確認する5点
運営:株式会社ドローン工務店
敷金を超える退去費用の請求は、あり得るのですか?
あり得ます。民法622条の2は、貸主は敷金から「賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額」を控除した残額を返還しなければならない、と定めています。敷金は債務の担保であって上限ではないので、借主が負担すべき額が敷金を上回れば、差額の請求はあり得るとされています。
民法622条の2第1項は敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しています。ガイドラインのQ&Aも「保証金という名目であっても敷金です」と説明しています。名前が違っても、担保として預けたお金は同じ扱いです。
ガイドラインの第3章に収められた判例には、敷金0円の契約で退去後に追加支払が命じられた例が3件載っています。名古屋簡易裁判所の平成元年6月22日判決は追加支払2万円、東京地方裁判所の平成6年8月22日判決は追加支払35万8,682円、仙台簡易裁判所の平成7年3月27日判決は追加支払2万7,000円です。いずれも貸主の請求額がそのまま認められたわけではなく、東京地裁の例では請求65万6,785円のうち、カーペットの敷き替えはクリーニングで十分、クロス張替えの下地調整と残材処理は借主に負担させる根拠がない、畳は取替えでなく裏返しで十分、と削られた結果の金額です。
一方で、敷金が全額返された例も並んでいます。敷金24万円が全額返還された例、敷金19万8,000円が全額返還された例、敷金30万円から未払水道料金2,359円だけを差し引いて返された例などです。敷金を超えるかどうかは請求書の書き方で決まるのではなく、借主が負担すべき損耗が実際にどれだけあるかで決まります。
- 民法622条の2第1項: 敷金から借主の債務を控除した残額を返還する(賃貸借が終了し、かつ物件の返還を受けたとき)
- 同条第2項: 借主が債務を履行しないとき、貸主は敷金を弁済に充てることができる。借主の側から充当を請求することはできない
- ガイドライン判例集: 敷金0円で追加支払2万円・35万8,682円・2万7,000円が命じられた例と、敷金が全額返還された例の両方がある
払う前に確認する5点は何ですか?
明細があるか、経年劣化と故意・過失が分けられているか、負担単位と経過年数が反映されているか、特約が根拠になっていないか、精算の計算が合っているか。この5点です。敷金を超えているかどうかより先に、請求の中身が正しいかを見ます。
1点目は明細です。ガイドラインのQ&A17は「賃貸人には、敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、賃借人は賃貸人に対して、明細を請求して説明を求めることができます」としています。「原状回復費用一式25万円」だけの精算書なら、部位ごとの面積・単価・負担割合が分かる明細を求めるところから始まります。明細が出てこない請求は、この時点で内容の確認ができません。
2点目は区分です。日焼けによるクロスの変色、家具の設置跡、画鋲の穴などの通常損耗と経年劣化は貸主負担、故意・過失や通常を超える使い方による損耗は借主負担、というのがガイドラインの基本の考え方とされています。明細の各行が、どちらに当たるかを一つずつ見ます。当サービスの診断でも、両方が同じ請求書に混ざっているケースが大半です。線引きの具体例は「退去費用はどこまで借主負担?」の記事にまとめています。
3点目は負担単位と経過年数です。クロスは㎡単位が望ましく、やむをえない場合も毀損箇所を含む一面分まで、フローリングは原則㎡単位、というのがガイドラインの考え方です。さらにクロスは6年で残存価値1円となる考え方が示されているので、入居年数が長いほど借主負担は小さくなります。「部屋全体のクロス張替え」「フローリング全面張替え」の行があれば、単位と経過年数の両方を確認します。
4点目は特約です。「退去時にハウスクリーニング費用を借主が負担する」「クロスは経過年数に関わらず借主負担」といった条項が契約書にあり、それを根拠にした請求かどうかを見ます。特約があれば必ず有効というわけではありません。ガイドラインは、借主に特別の負担を課す特約の要件として、特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること、借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること、借主が特約による義務負担の意思表示をしていること、の3点を挙げています。契約書の該当条項と、契約時の説明の記録を確認してください。
5点目は計算です。精算書は、原状回復費用のほかに未払賃料、日割家賃、鍵の交換費用などが合算されていることがあります。民法622条の2が敷金から差し引けるとしているのは「賃貸借に基づいて生じた債務」なので、何が足されているかを一つずつ見て、敷金の額、控除額、差額の計算が合っているかを確かめます。
敷金はいつ返してもらえるのですか?
契約で別の時期を定めていなければ、建物を明け渡したあととされています。民法622条の2第1項一号は「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」を返還の時点とし、ガイドラインのQ&A9も最高裁昭和49年9月2日判決を引いて同じ説明をしています。
敷金は、契約終了後に明け渡しまでの損害金まで担保するお金なので、返還を請求できるのは明け渡しが終わってからです。逆に言えば、明け渡しが済んだあとに理由なく返還を引き延ばされている状態は、この条文の「返還しなければならない」に照らして確認を求めてよい状態です。
精算の方式についてガイドラインは、貸主が原状回復工事を行い、敷金で精算する金銭賠償の方式が一般的、と説明しています。借主が自分で業者を手配して直すことは、契約書に貸主または貸主指定の業者が行うと書かれていない場合は可能と考えられるものの、返還予定日までに工事を終える必要があり、仕上がりが同等でなければやり直しを求められる可能性もある、とされています。実務では、貸主側の工事と敷金精算を前提に、明細を確認するほうが現実的です。
話し合いがつかないときは、どの順番で進めますか?
相談・あっせん、調停、少額訴訟の順とされています。ガイドラインは「相談・あっせんが初期の段階で利用され、それが奏功しない場合に、調停さらには訴訟、仲裁が用いられるのが一般的」と説明しています。
最初の窓口は消費生活センターです。ガイドラインは、国民生活センターや消費生活センターなどの常設的な紛争調整機関で、当事者間の円満な話合いのための相談・あっせんが行われている、としています。全国共通の消費者ホットラインは188です。ここで明細の求め方や、請求のどこが争点になりうるかを整理できます。
次が民事調停です。裁判所の調停機関が仲介し、当事者の互譲による解決を図る制度で、訴訟より簡易で迅速とされています。それでも折り合わなければ少額訴訟です。ガイドラインのQ&A12は、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて原則1回の審理で判決が出る手続きで、相手方の住所を管轄する簡易裁判所に申し立て、申立手数料は訴額60万円の場合で6,000円、と説明しています。書類や証人は審理の日にその場で調べられるものに限られるので、明細、契約書、入居時と退去時の写真、やり取りの記録をそろえておくことが前提になります。
ガイドラインの第3章は、原状回復や敷金返還をめぐって争いになる金額は数万円から数十万円であることが多い、と書いています。少額訴訟の上限60万円は、この金額帯を想定した枠です。ただ、訴訟まで進むと時間と手間がかかります。明細を求め、区分と経過年数を当てはめ、根拠を示して話し合う段階で解決するケースが大半で、当サービスの診断はその材料をそろえるためのものです。
敷金を超える請求が届いたら、払う前に確認する5点
- 1部位ごとの面積・単価・負担割合が分かる明細があるか(ガイドラインQ&A17: 貸主に説明義務・借主は明細を請求できる)
- 2各行が経年劣化・通常損耗(貸主負担)か、故意・過失(借主負担)かに分けられているか
- 3クロスは㎡単位または一面分まで・6年で残存価値1円、フローリングは原則㎡単位、が反映されているか
- 4特約を根拠にした請求か。契約書の該当条項と、契約時に説明を受けた記録があるか
- 5敷金の額・控除額・差額の計算が合っているか。未払賃料や鍵交換費など原状回復以外の項目が何か
よくある質問
敷金より高い請求は、それだけで違法ではないのですか?
それだけで違法とは言えません。民法622条の2は敷金から借主の債務を差し引いた残額を返すと定めているだけで、債務が敷金を超えることを禁じてはいません。ガイドラインの判例集にも、敷金0円で追加支払が命じられた例が載っています。確認すべきなのは金額が敷金を超えているかではなく、請求の各行が借主負担に当たるか、面積・単価・経過年数が正しく反映されているかです。
精算書に「原状回復費用一式」とだけ書かれています。どうすればいいですか?
明細を求めてください。ガイドラインのQ&A17は、貸主には敷金から差し引く原状回復費用について説明義務があり、借主は明細を請求して説明を求めることができる、としています。部位、面積、単価、借主の負担割合が分かる形で出してもらい、その上で経年劣化との区分と経過年数を当てはめます。明細が出ない段階で振り込む必要はありません。
敷金ゼロの物件です。退去費用は全額払うことになりますか?
借主負担と認められる額は払うことになりますが、請求された額をそのまま払うという意味ではありません。敷金がないのは差し引く原資がないというだけで、通常損耗と経年劣化が貸主負担であることは変わりません。敷金がない分、明細を求めて区分を確認する意味は大きくなります。
出典
- 民法第622条の2(敷金)・e-Gov法令検索
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)・第2章(トラブルの迅速な解決にかかる制度)・第3章(判例の動向・敷金0円の追加支払例と敷金全額返還例)・Q&A 6/9/12/17
- 2026年9月21日: 当サービスの診断件数にもとづく記述を削除しました(記録に動作確認の入力が含まれており、実際のご相談の件数として示せないため)